公共空間アートプロジェクトの合意形成:重要な関係者を見つけ、連携体制を築く方法
公共空間アートプロジェクトの合意形成:重要な関係者を見つけ、連携体制を築く方法
公共空間でのアートプロジェクトは、地域の魅力向上や新たな賑わいの創出に繋がる可能性を秘めていますが、そのためには様々な立場の方々との丁寧な合意形成が不可欠です。特に、プロジェクトに初めて関わる職員の方にとっては、「一体誰とどのように話しを進めれば良いのだろうか」と悩むことも多いのではないでしょうか。
この記事では、公共空間アートプロジェクトを円滑に進めるために重要な、関与すべき関係者の特定方法から、それぞれの立場を理解し、効果的な連携体制を築くための基本的な考え方と実践的なステップを解説します。
公共空間アートプロジェクトに関わる関係者とは?
公共空間におけるアートプロジェクトは、美術館の中のような閉じた空間ではなく、多くの人が日常的に利用する場所で行われます。そのため、関わる関係者は非常に多岐にわたります。プロジェクトを進める上で、まずこれらの関係者を漏れなく洗い出すことが最初の重要なステップです。
代表的な関係者は以下の通りです。
- 自治体内部の関係者:
- プロジェクト担当部署(地域振興課、文化課など)
- 施設所管部署(公園課、道路課、建築課など)
- 広報担当部署
- 財政担当部署
- 法務担当部署
- その他、関連する部署(例:観光課、教育委員会、福祉課など)
- 地域住民・団体:
- プロジェクト実施場所の近隣住民
- 自治会、町内会
- 商店街振興組合
- NPO、市民活動団体
- PTA、学校関係者
- 専門家:
- アーティスト
- キュレーター、アートディレクター
- 建築家、都市計画家
- ランドスケープデザイナー
- 合意形成ファシリテーター
- 事業者:
- プロジェクト実施場所の土地・施設所有者(民間の可能性も)
- 近隣の店舗、企業
- 工事請負業者、維持管理業者
- 議会:
- 市町村議会議員
- 報道機関:
- 新聞、テレビ、ラジオ、ウェブメディア
これらの関係者は、プロジェクトに対する関心度や影響力がそれぞれ異なります。
関係者の「関心」と「影響力」を把握する
洗い出した関係者が、プロジェクトに対してどのような「関心」(賛成、反対、中立、特定の要望など)を持ち、プロジェクトの進行にどの程度の「影響力」を行使しうるかを事前に把握することは、効果的なアプローチ方法を検討する上で非常に有効です。
例えば、近隣住民はプロジェクトの日常的な影響(騒音、景観の変化、人の流れの変化など)に強い関心を持ち、自治会などを通じて自治体への働きかけを行う影響力を持っています。一方、遠方に住む市民は関心は低いかもしれませんが、税金の使い方という点で抽象的な関心を持つ可能性があります。
すべての関係者の要望を完全に叶えることは難しい場合もありますが、それぞれの立場や懸念を理解しようとする姿勢は、信頼関係を築く上で不可欠です。
関係者への効果的なアプローチ方法
関係者の特定と関心・影響力の把握ができたら、それぞれの関係者に対して、プロジェクトの目的や内容を説明し、理解と協力を得るための具体的なアプローチを計画します。
- 自治体内部の関係者:
- 早期の情報共有と相談: プロジェクトの企画段階から関連部署に情報共有し、法規制(道路法、都市公園法、建築基準法、景観条例など)や既存計画との整合性について早期に相談することが重要です。部署間の連携がスムーズなプロジェクト進行の鍵となります。
- 定期的な情報交換: プロジェクトチーム内で定期的な情報交換会や合同会議を設定し、進捗状況や課題を共有します。
- 地域住民・団体:
- 丁寧な説明会の実施: プロジェクトの目的、内容、スケジュール、期待される効果、懸念される影響とその対策などを分かりやすく説明します。質疑応答の時間を十分に設け、住民の疑問や不安に真摯に答えます。
- 多様な意見交換の機会創出: 説明会だけでなく、小規模なワークショップ、懇談会、アンケート調査、意見箱の設置など、様々な形で意見を収集する機会を設けます。自治会や商店街といった既存の地域組織との連携も効果的です。
- 個別の対応: 特に強い懸念や反対意見を持つ方に対しては、可能であれば個別に対話する機会を設けることも検討します。一方的な説明ではなく、相手の立場や感情に配慮した傾聴の姿勢が重要です。
- 情報の継続的な発信: プロジェクトの進捗状況や住民からの意見への対応状況などを、広報紙、ウェブサイト、回覧板などで継続的に発信し、透明性を保ちます。
- 専門家:
- 専門的知見の活用: アーティストやキュレーターには、アートの専門性からの視点や企画・制作に関する助言を求めます。法的な専門家には、契約や著作権、許認可等に関する確認を行います。
- プロジェクトへの参画依頼: 必要に応じて、企画段階から専門家に入ってもらうことで、より質の高いプロジェクト設計と円滑な進行が期待できます。
- 事業者:
- 事業への影響の説明: プロジェクトが近隣の店舗や企業の事業活動に与える影響(騒音、交通規制、景観の変化など)について丁寧に説明し、懸念される点については対策を協議します。
- 連携や協力の依頼: プロジェクトへの協力(例:店舗壁面の活用、イベントへの参加、広報協力など)をお願いすることで、プロジェクトを地域全体の取り組みとして盛り上げることができます。
- 議会:
- 事前の丁寧な説明: 予算計上や条例改正など、議会の承認が必要な事項については、事前に議員に対してプロジェクトの内容や意義、必要性について丁寧に説明し、理解を求めます。
- 報道機関:
- 正確で迅速な情報提供: プロジェクトに関する情報を正確かつ迅速に提供することで、メディアを通じた市民への情報発信を円滑に進めることができます。
連携体制の構築と維持
関係者へのアプローチと並行して、関係者間の連携体制を構築し、維持することが合意形成の成功には不可欠です。
- 情報共有の仕組み作り: 定期的な関係者会議、メーリングリスト、プロジェクト専用ウェブサイトなどを活用し、関係者間で情報を共有する仕組みを作ります。情報の非対称性をなくすことが、不信感の解消に繋がります。
- 役割分担の明確化: 各関係者がプロジェクトにおいてどのような役割を担うのかを明確にすることで、責任の所在がはっきりし、主体的な関与を促すことができます。
- 意見調整のプロセスの確立: 異なる意見が出た場合に、どのように意見を集約し、調整していくかのプロセスを事前に決めておきます。必要であれば、第三者的な立場であるファシリテーターの協力を得ることも有効です。
- 信頼関係の構築と維持: 一度きりの説明で終わらせるのではなく、プロジェクトの進行に合わせて、関係者への報告や意見交換を継続的に行います。正直で誠実な対応を心がけ、長期的な視点で信頼関係を築くことが最も重要です。
留意すべき点
- 公平性と中立性: 特定の関係者の意見に偏ることなく、全ての関係者に対して公平で中立な立場で向き合う姿勢を保ちます。
- 記録の作成: 説明会や意見交換会の内容、寄せられた意見とその対応状況などは必ず記録を作成し、後から検証できるようにしておきます。
- 法的な手続きの確認: 公共空間の利用に関しては、関連する法規制に基づいた許可や手続きが必要となります。関係部署や専門家と連携し、必要な手続きを漏れなく行うようにします。
まとめ
公共空間アートプロジェクトにおける合意形成は、単に許可を得るための手続きではなく、プロジェクトを通じて地域に関わる多様な人々と関係性を築き、プロジェクトをより良いものへと育てていくプロセスです。
関与すべき関係者を丁寧に洗い出し、それぞれの立場や関心を理解した上で、誠実かつ効果的なアプローチを継続的に行うことが、プロジェクト成功への確かな一歩となります。
プロジェクト担当者の皆様が、この重要なプロセスを着実に進めていけるよう願っています。